クルマ好きなら誰もが憧れる空間
今回は、クルマ好きを中心に憧れを抱く方が多い、ガレージハウスに注目してみましょう。
ガレージは、住まい全体におけるプライオリティの高さに差はあれど、クルマ好きなら誰もが興味を持つ空間です。プランニングの過程で強い関心を示すのは、やはり圧倒的に男性が多いですね。
第1回で取り上げたキッチンにしても、第2回で取り上げた土間にしても、その空間ありきで設計をスタートすることはありません。
しかしガレージに関しては、ガレージ起点、カーライフ中心でプランニングするケースも多いです。住まいづくりを始めるにあたり、「クルマを楽しみたい」という要望が真っ先に出てくる方は少なくありません。
いつも愛車をそばに置き、眺めていたい。居室とつながったガレージで、愛車の整備をしたい。それぞれのカーライフに合わせて、暮らしの中にクルマを取り込んだ空間を設計するのは、わたしとしてもワクワクする仕事のひとつです。
とは言え、ガレージという空間の設計は、実はクルマ好きでない人にとっても、住まいづくりにおける重要なポイントのひとつです。今回お伝えしたいのは、クルマ好きでもそうでなくても、ライフスタイルに合わせた最適なガレージを考えましょう、ということです。
趣味を思う存分楽しむ「秘密基地」
今回ご紹介するガレージハウスは、東京都のA邸。
大のクラシックカー好きであるAさんは、広い敷地内にあるビルトインガレージに1台、屋外に1台と、計2台のクラシックカーを保有されています。
ガレージには、居室から雨に濡れることなく、また玄関も通ることなくアクセスすることができます。ほかのご家族がいらっしゃる居室空間とは隔離した、Aさんだけの特別な部屋。Aさんは、ここに籠って愛車を眺めたり、クラシックカー好きの仲間同士で集まってクルマ談義に花を咲かせたりと、クルマとともにある時間を満喫されています。さながら、クラシックカー好きのための「秘密基地」のような空間です。
愛車の赤いボディが映えるよう、内装は薄いグレーと白という淡い色調で構成。全面を白で統一することも考えましたが、床はタイヤ痕など汚れが目立ちやすくなるため、あえてグレーを選びました。あえてタイルを貼らず、コンクリートをむきだしにすることで、インダストリアルな雰囲気を演出しています。
道路と敷地の間の高低差を利用し、天井を高くとったことで、生まれたのは広い壁。そこには、カー雑誌の広告ビジュアルや、クラシックカーのミニチュアコレクションといったアイテムがずらりとディスプレイされています。
高い位置に設置した窓から差し込む自然光に加えて、複数配置した暖色のスポットライトが愛車やアイテムを照らしています。この演出が、ガレージをまるでショールームのような特別な雰囲気に仕立て上げているのです。
同じガレージでも、クラシックカーとスポーツカーとでは、空間のつくり方が異なります。クラシックカーの場合は、Aさんのように、関連アイテムも一緒に飾りたいと考える方が多い。ですから、インテリアは極力シンプルなデザインを目指します。一方、スポーツカーの場合は、よりモダンな空間がフィットします。クルマのボディにスポットライトを当て、ドラマチックな雰囲気を演出するのも素敵ですね。
また、愛車を眺めるだけではなく整備をしたいという場合は、相応の天井高を確保しなければなりません。長時間にわたって作業するならば、エアコンの設置も視野に入れたほうがいい。タイヤをストックしている場合は、その収納スペースを用意する必要があります。オーディオ機器やモニターを設置すれば、愛車を傍らにお気に入りの音楽や映像を楽しむこともできます。このように、クルマをどう楽しむかによって多様な空間設計が考えられるのです。
居室との距離や動線は、ほかのご家族の理解や協力体制も考慮しながら検討する必要があります。
クルマを楽しむ時間がご家族の生活リズムに合わないようであれば、ガレージと居室とは完全に分離したほうがいいでしょう。特にクラシックカーもスポーツカーもエンジン音が大きいものが多いですから、ご家族の寝室との位置関係には注意が必要です。
一方で、暮らしのあらゆる場面でクルマを感じていたいと考えていて、それをご家族も理解してくださる場合は、ガレージと居室との接点をできる限り増やすようプランニングします。玄関のアプローチとガレージを一体化させて、毎日の出入りの中でクルマに触れる。入浴しながら愛車を眺める。シアタールームとガレージの間の仕切りをガラス張りにして、愛車の存在を感じながらお気に入りの映画を鑑賞する……。このように、積極的に「どことつなげられるか」を発想します。
これだけ強くこだわることができる趣味を持っているのは、間違いなく幸せなことです。クルマ好きの方には、ぜひ自分の時間をとことん楽しめる空間づくりを追求していただきたいと思います。
ガレージは「クルマ好きのためのもの」ではない
ガレージハウスは「クルマ好きのためのもの」というイメージを持たれがちですが、必ずしもそうではありません。
頻度や目的を問わず、暮らしの中でクルマを利用する方なら誰にとっても、ガレージは住まいの満足度に密接にかかわってくる重要な空間と言えます。
趣味としてのクルマではなく移動手段としてのクルマを持つ方にとっては、ビルトインガレージと居室をつなぐ空間設計が、快適な暮らしにつながるのではないでしょうか。たとえば、クルマでスーパーマーケットへ行き、大量の買い物をして帰ってきたとき、ガレージとパントリーがつながっていたら、荷物の積み下ろしに便利ですよね。
また、キャンプ用品やスキー板、サーフボードなど、レジャー用途の大型アイテムをクルマと一緒にガレージに収納しておきたいというニーズを持つ方は多いもの。ガレージと言っても、クルマそのもののことだけを考えればよいわけではなく、クルマに付随する個々のライフスタイルに合わせて空間を設計する必要があります。
クルマでどこへ行くのか、クルマとともにどんな暮らしを送るのか。建築家はそこに思いを馳せながら、その住まいにふさわしいガレージを具現化していきます。
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次回のテーマは「見守る・つながる家」です。
家族一人ひとりが孤立せず、とはいえ過度に干渉し合わず、緩やかにつながっている安心感に包まれながら暮らすことができる住まいのつくり方を考えます。お楽しみに。
一級建築士 深澤 彰司
株式会社テラジマアーキテクツCEO
東京理科大学卒業。2004年テラジマアーキテクツ入社。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手掛けた住宅は300棟以上。デザインと生活空間の両立した住宅、お引渡し後も長く安心して住まえる住宅を目指し、使い勝手や動線に配慮した設計、お客さまと一緒につくる過程を大切にしている。
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