自分にぴったりのキッチンとは?
食事を作る作業場としてはもちろん、家族の団欒の場として、時に来客のおもてなしの場として、住まいの交流の中心にあるキッチン。暮らしの質を左右すると言っても過言ではないほど、住まいにおいて重要な位置を占めています。せっかく家を建てるなら、自分にとって使い勝手のよいキッチンを作ってみたい、とお考えの方は多いのではないでしょうか。
では、自分にぴったりのキッチンはどうしたら形にできるのでしょうか?
最新の機器や流行のキッチンブランドを採用しても、それが本当に自分にとって適切なのか、家族の暮らしにあっているのかを判断するのは難しいことです。
私たち建築家がそれをご提案するとき、住まい手について非常に細かく情報を集め、適切な要素を集めてひとつの形を作り上げていきます。
今回は細かなこだわりの詰まったK様邸のキッチン事例をご紹介します。オーダーキッチンを考える上でのご参考にしていただければ幸いです。
こだわりたい部分を受け止めてくれるブランドを選ぶ
まず「どんなキッチンを作りたいか」をイメージしたら、それを叶えてくれるキッチンメーカーを探すことになります。一口にオーダーといっても、メーカーごとに出来ることがそれぞれ異なるためです。
K様が今回選択したキッチンは「レザルク」のもの。キッチンのみならず、家具全般をオーダーメイドできるブランドです。「レザルク」ではひとつひとつの金物から自社で製作しているため自由度が高く、細部までこだわったオーダーが可能です。機械関係のお仕事をされているK様はブランドの「ものづくり」へのこだわりに、奥様は家具も手がけるブランドならではのインテリア性に惹かれ、ご夫婦ともに納得の上でこのブランドを選択しました。
使い勝手よく、おもてなし上手なキッチン
K様の奥様はおもてなし上手な方です。日ごろから料理教室で腕を磨いていらっしゃるほか、いつも住まいの隅々まできちんと整えて来客を迎えます。そのため、今回のキッチンには料理がしやすいことはもちろん、来客を意識して生活感を出さないこと、インテリア性に優れたものであること、といったご要望がありました。
料理のしやすさを決めるのは、作業する人の身体に合っていることと、無駄のない動線です。まず、奥様の身長と、スリッパを履いて過ごすという生活スタイルから、適切な作業台の高さを割り出して設定。身体に負担をかけずに作業できるようにしました。
また、K様のキッチンは全長3メートルと大型。作業台とコンロ、水栓を並列に設置すると左右の移動が大変です。そこで、三角の動線を描けるよう、それぞれを向かい合わせる形に設定することで、作業効率を高めています。
収納に関しても様々な工夫を施しています。
例えば、使い勝手の良い調理器具や食器類の配置はもちろん、ご主人やお子様が自分で使うものと奥様が使うものをゾーニングすることで、互いの作業が干渉しないようにしています。また、お皿の枚数に合わせた棚板の高さの設定、普段から爪のお手入れを欠かさないという奥様のため、収納の手掛けの部分の深さを通常より少し深めに設定するなど、細かなこだわりが可能な「レザルク」ならではの調整を行い、K様ご家族にとってより使いやすいキッチンを目指して検討を重ねました。
コンロの部分にはガス、IHのほか、鉄板を設置しました。お肉を焼くのが得意なご主人たってのご要望でした。リビング横のバルコニーでバーベキューをしたいというお話もあったため、キッチンからバルコニーにスムーズに出ることができるよう、全体の配置を工夫しています。
来客を迎えるリビングからキッチンがどのように見えるか、という部分にも注力しました。
キッチンは家具風のつくりで、天板にはデクトンの一枚板を用いてシンプルにデザイン。リビングのテレビボードと同素材を使用することで、LDK全体の調和を図っています。
冷蔵庫などの機器類は背面収納と裏に隠されたパントリー内に配置し、来客から裏側が見えないよう配慮しています。また、調理中に食べ物のにおいがリビング側に流れないようコンロとレンジフードを背面側に設定しました。さらに、レンジフードは収納内に埋め込まれており、一見して作業場らしさを感じさせません。来客に舞台裏を感じさせず、おもてなしとおいしいお料理だけを楽しんでほしい、という思いやりから生まれたデザインです。
暮らしに合った設備は話し合いから生まれる
雑誌やインターネットで、おしゃれで便利そうなキッチンの実例はたくさん見つけることができます。ただ、自分にとって本当に使いやすいキッチンを作るには、ご家族が普段何を食べ、どんな料理をすることが多いのか、どこで食事をするのか、集う人数、主に作業する人の身体に合っているか、など、それぞれの生活スタイルに合わせることが大切です。
建築家にキッチンの相談をするときには、まずご家族のライフスタイルについて、どんなことでもお話を聞かせてください。キッチンには検討事項が多く、作るのに時間がかかることもありますが、住まい手と建築家がじっくり話し合うことで、きっとご家族に最適なものを形にすることができると思っています。
建築家 柴原 尚子
我が家が一番落ち着くねと言って頂けるよう、お客様と一緒に楽しみながらひとつずつ丁寧に家づくりが出来ればと思っております。 建物や住み手を取り巻く風景は様々ですが、毎日の帰り道が楽しくなるような住まいづくりのお手伝いをさせて頂ければ幸いです。
メソッド
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