約30年といわれている日本の木造住宅寿命(※1)。新築を好む国民性や、一代で住み終わる慣習性によると考えられていますが、メンテナンスを続けることで200年もの長期間にわたって住まいの役割をまっとうする木造住宅も存在します。家を建てると決めた今と、ライフステージが変わっていく未来も快適であるよう視野にいれて、どのように家づくりをするべきか、建築家の見解をお伝えします。
語り手:一級建築士 深澤彰司(株式会社テラジマアーキテクツCEO)
移り変わる家族のライフステージに対応できる住宅を選ぶ
日本の木造住宅は、これまで約30年で役目を終え、「建てては壊して」を続けてきました。しかし、現在では住宅性能が向上したこともあり、カーボンニュートラルの実現やSDGsの観点から、「住み捨て」せずに家を資産として活用していこうという流れがあり、寿命の長い木造住宅が求められるようになってきました。
そこでご相談にいらっしゃるお施主さまには、今現在の暮らしをより快適にする計画に加え、10年、20年、30年と住み続けることで変化していくご家族のライフステージを想像してもらいながら、初期設備のご提案をしています。
お施主さまの多くは、お子さまが住宅を引き継げるようにと考えていらっしゃいますので、現在ご夫婦と小さなお子さま一人の3人家族で住み始める場合、初期の寝室は大きな空間1つが望ましいかもしれません。その後、新しくお子さまが生まれたり、成長して子ども室が必要になったら、寝室を分割して子ども室としたり、あらかじめ確保しておいたフリースペースを子ども室として区切ることを想定します。
その後、お子さまが巣立ったら、子ども室をワークスペースにしたり、ホールと一体化させてセカンドリビングにするなど、家族のメンバーの変化とライフステージによる目的に応じて、個室を流動的に増減できる仕様が望ましいと考えています。
このように、建築後も間取りを自由に変えられる仕組みを「スケルトン・インフィル」と呼び、木造ではラーメン構造の注文住宅で採用されるようになってきました。
間取りを自由に変えられる仕組み、スケルトン・インフィル。
スケルトンとは木造の骨組みである構造躯体のことを、インフィルとは水回り・電気系統設備や壁を含む内装のことを指す言葉で、「スケルトン・インフィル」とは一般的に、構造躯体と壁や内装が独立していて、建築後も内装を自由に取り換えられる仕組みや構造のことをいいます。
RC造のテナントビルで考えると分かりやすいと思いますが、ビルの構造と、テナントで入る店舗の内装はまったく別ですよね。テナントは時代によってカフェになったりラーメン屋になったりと移り変わりますが、ビルの躯体は変わりません。これと同じ原理が木造住宅に適用されていると考えてください。
ハウスメーカーや工務店によっては、スケルトン・インフィルであっても玄関・風呂・トイレの場所は変えられないと標ぼうしているところもありますが、設計時に床下空間や二重天井の高さを十分にとっていれば、配管を伸ばしたり増やしたりすることも可能なため、自由に場所を変えることができます。
ただ、木造住宅すべてがスケルトン・インフィルに対応できるかといえば、そうではありません。木造住宅には約5種類の工法がありますが、適しているのは圧倒的にラーメン構造です。
ラーメン構造は、基礎、柱、梁の接合部を金具で固定することによって、自由度の高い壁、窓、天井をデザインすることができます。間取りは壁の足し引きによって変えていくものですから、自重を支える耐力壁でなければ、ほぼ自由に取り去ることができます。
ラーメン構造のほか、日本で一番建築数が多い軸組工法でも、スケルトン・インフィルを適用することはできます。しかし、軸組工法では壁の要所に耐震性を担保する「筋交い」が入っているため、その部分を抜き去ることはできず、自由度は低いといえるでしょう。
その他の木造壁式工法(ツーバイフォー)やプレハブ・ユニット工法は、壁自体が構造として自重を支えているため、取り去ることはできません。リフォームをするとしたら、間取りはそのままで壁紙や水回りを新しくするといった方向性になるでしょう。
そうなると、木造壁式工法(ツーバイフォー)で建築した住宅は、始まりは住み手のライフタイルに合わせたオーダーメイドであったとしても、間取りの可変性がないためライスステージの初期だけに対応していることになり、数十年後、または次世代以降の住み手にとっては、建売住宅と変わらない存在になってしまいます。30年先も住む人の生活に合わせた注文住宅であり続けるのならば、ラーメン構造をお選びになるとよいと思いますよ。
スケルトン・インフィルを内包する200年の住まい「長期優良住宅」。
スケルトン・インフィルの考え方で長期的にオーダーメイド住宅の役割を果たすことを目指した住まいに長期優良住宅があります(※2)。この住宅は、「人が心地よく長期的に暮らせること」を意図しており、木造でもメンテナンスをしながら200年住みつなぐことを目指しています。200年といえば、子ども、孫が受け継いでもまだ100年はあまりある感覚ですよね。そのまま家族が受け継いでいっても良いですし、賃貸・売却してもよいことから、資産として価値のある住宅と考えられています。
長期優良住宅には認定基準があり、まず200年住める家にするため、構造躯体に優れた耐震性と耐久性が求められます。そのほかに認定項目は多岐にわたっており、床面積の広さなどの居住環境、白アリ害を防ぐ劣化対策、床下空間の確保や点検口設置などの維持管理の容易性、省エネ性などをクリアする必要があります。
初期の建築費用がほかの木造住宅に比べて高いという評価をする方もいるようですが、政府はカーボンニュートラルやSDGsの観点から長期優良住宅を推奨していきたいのでしょう、新築から5年間は固定資産税が半額になったり、一番高い水準で住宅ローン減税を受けられたりと税制措置で優遇されているので、家づくりが具体的になった段階で試算してみることをお勧めします。(※3)
弊社では住みごこち、経済面、時代性の総合的な観点から、すべて長期優良住宅の水準で設計計画をおこなっています。家を新しく建てる動機が、「より豊かな暮らし」を目指すものであれば、長きにわたって暮らしとともに歩める住宅を検討されてはいかがでしょうか。
※1 ベターリビング
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/tebiki.pdf
※2国土交通省 長期優良住宅
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000006.html
※3 国土交通省 認定長期優良住宅に関する特例措置
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000022.html
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一級建築士 深澤 彰司
株式会社テラジマアーキテクツCEO
東京理科大学卒業。2004年テラジマアーキテクツ入社。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手掛けた住宅は300棟以上。デザインと生活空間の両立した住宅、お引渡し後も長く安心して住まえる住宅を目指し、使い勝手や動線に配慮した設計、お客さまと一緒につくる過程を大切にしている。
ビジョン
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