現在建築されている一戸建て住宅のなかで、一番棟数が多い構造である木造住宅。今回は、木造住宅がなぜ一般的なのか、木造でどんな環境を形づくれるのかをお伝えします。
語り手:一級建築士 深澤彰司(株式会社テラジマアーキテクツCEO)
RC造と同等の住宅性能をもつ木造
お施主さまが注文住宅を建てようと考えるとき、多くの方は空間デザインから構想がスタートします。「大きな窓が欲しい」「ビルトインガレージが欲しい」といったように資料を集めながら進めていき、ご相談に来られると「このような家をRC造ではなく、木造で建てられるのか」という質問をいただくことがあります。
答えは、ほぼ「イエス」です。
ひと昔前は「頑健な豪邸ならRC造(鉄筋コンクリート造)」というイメージがありましたが、現在は自由度の高い空間デザインが可能で、かつ構造計算によって耐震性を担保している木造構法も誕生しています。そのため、建築地の条件が特殊であったり、地下室が必要である場合でない限り、木造である方が利点は多いといえるでしょう。
耐火性においても、現在の防火基準を守って建築されていれば、RC造に差がつくことはありません。火災は家の躯体ではなく、主に家具が燃え、炎が壁を抜けていくことで広がります。よって現行の防火構造や耐火構造を採用していれば、一棟の出火から町内全域に火災が燃え広がるという惨事は考えにくいのです。
約5種類ある木造住宅の工法
木造住宅にもさまざまな作り方があります。まず全体の木造住宅の約76%と大多数を占める木造軸組み工法(在来工法)、次に22%を占める木造壁式工法(木造枠壁工法)、そしてプレハブ工法(ユニット工法)、木造ラーメン工法。丸太を組み上げるログハウスもありますね(※1)。
軸組工法(在来工法)
間取りの自由度が高く、伝統的な日本の気候にあった建て方で、木材をくり抜いて接合させ、基礎の次に柱、梁、屋根を先に組みあげてから壁をつけていくものです。ダントツのシェア率から分かるように施工会社が多く、必然的に資材を加工する工場も多いので、コスト面で一番お手軽といえるでしょう。
一方で大多数を占める軸組工法だからこそ、度重なる震災によって火災・倒壊などの弱点が露呈し、建築基準法の改正を繰り返してきたという歴史を負っています。現在でも一般的な二階建て木造住宅は構造計算を義務付けられていないため、法を順守して建築許可が下りている設計図でも、実際の災害に耐えうるかは未知数であることに注意が必要です。
木造壁式工法(木造枠壁工法)
北米を発祥とし、通称「ツーバイフォー」と呼ばれている工法です。2インチ×4インチのパネルを元に、釘と接着剤によって基礎、床、壁、屋根の順で組み上げていきます。雨が降ってしまうと床が水浸しになってしまうので、天気と養生の仕方に気を付けなければなりません。軸組工法が柱や梁で建物を支えるのに対し、こちらは壁で自重を支えるため、のちのち間取りの変更をしたくても壁を抜くことは困難です。
プレハブ工法・ユニット工法
現場での稼働が最短40日ほどで済んでしまうプレハブ工法は、あらかじめ窓や壁を工場で加工して木質パネルを作っておき、現場で組み立てる方法です。さらにキッチンや建具、配線配管設備までを「ユニット」と呼ばれるキューブ状の空間としてつくっておき、わずか1日でブロックのように組み上げて施工する方法をユニット工法といいます。
1996年に全国の年間着工件数が164万棟に達した当時(※2)は、「いかに早く建築して棟数を増やすか」が問われていたため、ツーバイフォーとプレハブ工法が全盛を迎えました。ただし、どちらも間取りの変更はできないと思っていた方がよいでしょう。
木造ラーメン構造
「ラーメン」とはドイツ語で「額縁」という意味。もともと鉄骨造の「柱と梁のみで構造部をつくる」仕組みを木造で受け継いだ工法です。軸組工法の派生・進化形ともいってよく、接合部は金物で補強するぶん、軸組工法のように壁に筋交いを入れたり、自重を支える耐力壁が必要ないため、間取りの自由度は上がります。建築後に間取りや設備を変えるリフォームにも適しています。
先にも触れましたが、現在の建築基準法では、工法に関わらず一般的な2階建て以下の木造住宅には構造計算が義務化されていないため、構造計算をしないで建築される建物が多いのが現状です。また、天然の樹木を使用する場合、強度にバラつきがあるため正しく構造計算ができません。住宅の耐震性能を明確にするのであれば、集成材で建築できる工務店を選んでいただきたいですね。
人にやすらぎを与える木材
私たちは本能的に知っていることだと思いますが、木材は私たちにリラックス効果をもたらすことが証明されつつあります。千葉大学の特任助教である池井晴美先生の実験(記事:木が人にもたらす生理的リラックス効果)によると、木材の香りを嗅いだり手や足で触れることによって、また木目を見るだけでも脳が沈静化して生理的に落ち着くそうです。
それらは木造住宅に生かしやすい事象ですよね。弊社のお施主さまには、モダンな雰囲気のタイルや石の質感をお好みの方が多いですが、毎日暮らす場所である家に無機質すぎない環境を求められているようにも感じられます。
ですから、外観であればルーバーを木質にしたり、内装であれば壁や天井の一部にフローリング材を貼るなどして、生活感を排除しながらも少しほっとする部分を取り入れて空間をデザインしています。これから家を建てる方には、木の持つ住宅性能とデザイン性をバランスよく享受しながら、ご自分ならではの心地よい住まいを模索していただきたいと思います。
一級建築士 深澤 彰司
株式会社テラジマアーキテクツCEO
東京理科大学卒業。2004年テラジマアーキテクツ入社。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手掛けた住宅は300棟以上。デザインと生活空間の両立した住宅、お引渡し後も長く安心して住まえる住宅を目指し、使い勝手や動線に配慮した設計、お客さまと一緒につくる過程を大切にしている。
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