住まいのあり方が多様化し、それぞれの価値観、ライフスタイル、またライフステージに合わせて、選択肢は広がり続けています。こうした中、「自分らしい家をつくること」の魅力を、また「自分らしい家で暮らすこと」の価値を、あらためて多くの方に知っていただきたい――そんな思いから、「More Life Lab.」は生まれました。

生き方・暮らし方を自ら定義し、つくり上げようとする人。
その価値観に賛同し、肯定したい。

上質と個性を重んじ、人生を通じてそれを謳歌したいと願う人。
その思いに寄り添い、実現を後押ししたい。

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ロゴマークについて

「M」の右斜め上に伸びるラインが象徴するのは、「もっと自由に、自分らしく」という、住まいづくりの考え方。左下へ伸びるラインは、光と風のベクトルを表し、自然を取り入れる暮らしの心地良さを連想させます。上下に広がる造形が、「もっと自由に、自分らしく」と望む人の周りに広がる空間の存在を感じさせます。


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豊かな住まいを科学する

人が心地よく暮らせる住まいに必要な要素とは何か。その要素を満たすために、建築家がすべきこと、住まい手が工夫できることには、それぞれどのようなことがあるか。工学、医学、健康科学、生物学、心理学などさまざまな分野の専門家が、学術的・科学的な視点から解説するリレー連載です。

feature

木が人にもたらす生理的リラックス効果

最近、ストレスに関連した疾患が世界全体で問題となっています。私たちは知らず知らずのうちに、現在の都市化・人工化された環境においてストレス状態にあり、病気になりやすい体になっているのです。そのような状況下、身近で馴染み深い自然素材である木材のリラックス効果に注目が集まっています。科学的に証明されつつある木材の効果と、日常生活への効果的な取り入れ方をご紹介します。

千葉大学 環境健康フィールド科学センター 自然セラピー研究室 特任助教 池井晴美(いけい・はるみ)

専門分野は自然セラピー学、環境健康学、木質環境学、生理人類学。2013年千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業、同年千葉大学大学院園芸学研究科博士前期課程入学。2015年博士前期課程修了、博士後期課程進学と同時に森林総合研究所木材部門構造利用研究領域にテニュア・トラック型任期付研究員として入所。2018年博士後期課程修了、博士(農学)取得、森林総合研究所研究員。2019年10月より千葉大学環境健康フィールド科学センター特任助教、現在に至る。2015年千葉大学学業成績優秀者に係る学長表彰(博士前期課程)、2016年つくばサイエンス・アカデミー(尾崎玲於奈会長)テクノロジーショーケース若手特別賞、2018年千葉大学Future Earth優秀発表賞、千葉大学学業成績優秀者に係る学長表彰(博士後期課程)、2019年日本木材学会奨励賞等を受賞。

人間の体は「自然対応用」

人は600~700万年間、自然環境下で過ごしてきたことが科学誌Natureに掲載された論文1)によって明らかにされました。18世紀後半にイギリスで起こった産業革命を都市化・人工化の起点と仮定した場合、その期間は200~300年間程度に過ぎません。人は、その進化の歴史の99.99%以上を自然環境下で過ごしてきたことになります。

遺伝子は数百年では変化できないため、私たちは、自然環境に適応した体をもって、今の都市化・人工化された社会を生きています2)。自然体応用の体と都市環境とのギャップが、私たちをストレス状態に陥らせています。

また、1980年代に生じたパソコンやスマートフォンなどの情報機器技術の急速な進展によって第二期の都市化・人工化が進み、さらに2020年初頭に始まったコロナ禍が、このストレス状態に拍車をかけています。(図1)

図1 人と自然の関係 ※引用文献2) を改変

「木材セラピー」とは

木材が人に快適さをもたらすことは、経験的に知られています。令和元年10月に内閣府が行った「森林と生活に関する世論調査3)」では、回答者の約9割が「様々な建物や製品に木材を利用すべき」と答え、その理由として「触れた時にぬくもりを感じる」「気持ちが落ち着く」など、木材がもたらすリラックス効果に期待する意見を挙げています。

「木材セラピー」は、私の所属する研究室名でもある「自然セラピー」の一種であり、2021年に本分野の開祖である宮崎良文グランドフェローとともに造語した言葉です4)

木材セラピーの目的は、「人と木材間の相互作用を明らかにし、木材が人にもたらす生理的リラックス効果を解明すること」です。木材が人にもたらすリラックス効果やストレス軽減効果について、私たちは経験的に知っていますが、これまでアンケートやインタビューなどの主観評価研究が主流でした。人の脳や体にもたらす効果を調べた研究は極めて少ないのですが、最近の計測システムの進歩を受け、少しずつ蓄積されつつあります。

ところで木材セラピー研究は、どの国が最も進んでいるかご存じですか。実は、この研究分野の一番の先進国は、日本です。2015年に、木材セラピーに関するこれまでの研究(先行研究)を調査するため、学術論文データベースを用いて文献検索を実施しました。その結果、査読者という匿名の研究者によってきちんと審査された学術論文は33報あり、そのすべてが日本の研究チームによる報告であることがわかりました5)

収集した先行研究を五感刺激別に整理すると、におい(嗅覚)に関する研究が15報と最も多く、反対に、手や足で触る(触覚)研究は2報と極めて少ないことがわかりました。また、いくつかの研究において、実験プロトコル(手順)の不備(被験者数が少ない、対照条件を設定していない等)があることもわかりました。

そこで、研究チームにて考案・改良した脳活動・自律神経活動の同時計測プロトコルを用いて、木材セラピーが人にもたらす生理的リラックス効果について明らかにすることを目的とし、研究を開始しました。

ここからは、これまで私たちが実施した木材由来の嗅覚、触覚、ならびに視覚刺激が人の生理応答にもたらす生理的リラックス効果に関して紹介します。

木材による生理的リラックス効果 ①嗅覚刺激

人のストレスならびにリラックス状態を把握するためには、一般的には、1)脳活動、2)自律神経活動、3)内分泌活動、4)免疫活動を指標として用います。私たちは、1)近赤外分光法による脳前頭前野活動計測と2)心拍変動性を用いた自律神経活動計測の2つを組み合わせることで、木材セラピーが人の脳と体に及ぼす影響を調べています。(図2)

図2 木材セラピー実験における計測風景 ※引用文献5)を改変

木材は、その使用にあたり、変形や収縮を防ぐため乾燥が必要です。近年、技術の向上に伴い、短期間で均一な乾燥を施せる人工乾燥法の利用が広がっています。しかし、高温で加熱した場合、熱による成分の変質や低沸点部の消失などによって、木材本来の香りが劣化するとされています。そこで、木材本来の香りが残った「天然乾燥ヒノキ材」を用いて、その生理的リラックス効果を調べました6)

製材後、約4年間かけて自然乾燥させた天然乾燥ヒノキ材をチップ化し、におい袋に入れ、特注のにおい供給装置内にセットしました。女子大学生19名(平均22.5歳)に協力してもらい、目を閉じた状態で、におい供給装置によって3L/分の流量で供給されるにおいを90秒間嗅いでもらいました(図3)。香りの感覚強度は、「かすかに感じるにおい」から「弱いにおい」でした。生理指標は、近赤外分光法による脳前頭前野活動としました。

図3 嗅覚刺激実験風景とにおい供給装置 ※引用文献6)を改変

においを嗅いでいる90秒間の右前頭前野活動の毎秒変化を図4に示します。脳前頭前野活動が徐々に低下し、鎮静化しました。左前頭前野活動においても、同様の変化を認めました。ヒノキ天然乾燥材の香りによって、前頭前野活動は鎮静化し、脳がリラックスすることが明らかとなりました。

図4 ヒノキ天然乾燥材の嗅覚刺激による右前頭前野活動の鎮静化 ※引用文献6)を改変

さらに、ヒノキ、スギなどの針葉樹の主要成分の一つであるα-ピネンによる効果も調べたところ、その嗅覚刺激によって、リラックス時に高まる副交感神経活動が上昇し、体がリラックスすることが分かりました7)。代表的な植物由来成分の一つであり、香水や化粧品の原料としても用いられるリモネンにおいても、α-ピネンと同様に生理的リラックス効果をもたらすことが明らかとなりました8)

木材による生理的リラックス効果 ②触覚刺激

各種塗装材への手掌接触がもたらす生理的影響を調べました9)。木材は、ホワイトオーク材とし、塗装を施さない無垢材、オイル塗装材、ガラス塗装材、ウレタン塗装材、ウレタン塗装厚塗材の6種類を用意しました。女子大学生18名(平均21.7歳)に協力してもらい、目を閉じた状態で、各種木材をそれぞれ90秒間触ってもらいました。(図5)

図5 手掌接触実験風景 ※引用文献9)を改変

無垢材に触れることによって、左右前頭前野活動は低下し(図6)、副交感神経活動は上昇しました。(図7)

つまり、無垢材は、各種塗装木材に比べて、人に生理的リラックス効果をもたらすことが明らかとなりました。日本の代表的な針葉樹であるヒノキ材10)およびスギ材11)でも、同じ効果が得られることが分かりました。

図6 無塗装材への手掌接触がもたらす左前頭前野活動の鎮静化: 各種塗装材との比較 ※引用文献9)を改変
図7 無塗装材への手掌接触がもたらす副交感神経活動の高まり:各種塗装材との比較 ※引用文献9)を改変

木材に素足で触ったときのリラックス効果についても調べました12)。女子大学生19名(平均21.2歳)に協力してもらい、目を閉じた状態で、素材を上に移動させ、60cm平方の無塗装ヒノキ材と大理石に90秒間触ってもらいました。(図8)

図8 足裏接触実験風景 ※引用文献12)を改変

木材に足裏で触ることによって、左右前頭前野活動は低下し、副交感神経活動は上昇し、交感神経活動は低下しました。つまり、ヒノキ材に素足で触ることは、高すぎる脳活動を鎮静化させ、リラックス時に高まる副交感神経活動を亢進させるとともに、ストレス時に高まる交感神経活動を抑制することが明らかになりました。同様の効果は、スギ材13)でも示されました。

木材による生理的リラックス効果 ③視覚刺激

大型ディスプレイを用いて、実物大の木材を縦方向に貼った壁(縦貼)と横方向に貼った壁(横貼)を対象として、その視覚刺激が人の生理応答に及ぼす影響を調べました14)(図9)。女子大学生28名(平均22.3歳)に協力してもらい、縦貼の木質壁画像、横貼の木質壁画像、ならびにグレー画像(対照)をそれぞれ90秒間見てもらいました。

図9 視覚刺激実験風景 ※引用文献14)を改変

縦貼の木質壁画像を見ることによって、左右前頭前野活動が低下しました(図10)。横貼についても、比較のための対照条件であるグレー画像との間に、統計的な差異が認められました。

つまり、縦貼あるいは横貼の木質壁画像を見ることは、対照と比べて、脳前頭前野活動を鎮静化させるという生理的リラックス効果をもたらすことが明らかになりました。

図10 縦貼・横貼木質壁画像の視覚刺激による左右前頭前野活動の鎮静化 ※引用文献14)を改変

節がある材(有節)と節がない材(無節)についても大型ディスプレイを使って調べました15)。節の有無によって生理応答の反応に違いがありましたが、全体として評価した場合、無節・有節の木質画像は、1)脳前頭前野活動の鎮静化を生じるとともに、2)リラックス時に高まる副交感神経活動の亢進、あるいはストレス時に高まる交感神経活動の抑制を生じ、人に生理的リラックス効果をもたらすことが明らかになりました。

木材セラピーを楽しむポイント

木材は、日常生活における身近な自然素材です。建物の内装仕上げ材やテーブルなどの家具としてはもちろん、食器類や子ども用のおもちゃなど、幅広く活用されています。

今回ご紹介したように、木材の香りを嗅いだり、木材に手や足で触れたり、木目を見たりしたとき、私たちは「ほっ」とする感覚を持ちますが、これまで、脳前頭前野活動と自律神経活動の同時計測を通して、その感覚を説明する科学的データはありませんでした。本稿で紹介したデータは、最近の機器類や計測システムの進歩によって得られた木材セラピー効果に関する最新の知見です。

最後に、日常生活において、どのように自然セラピーを楽しみ、ストレス状態の改善に使えばよいのか提案したいと思います。

木材セラピー研究の第一人者である宮崎良文千葉大学グランドフェローは、快適性を「受動的快適性」と「能動的快適性」の2つに分けて整理しています2)(図11)。「受動的快適性」は、不快の除去を目的とします。暑さ・寒さの温熱刺激がその代表です。真夏の暑くてたまらない日に涼しい喫茶店に入ると快適ですし、寒くて震えているときに暖かい部屋に入ると誰でも快適に感じます。個人差は、ほとんどありません。

一方、今の日本を含めた先進国では「受動的快適性」から「能動的快適性」に移行しつつあります。「受動的快適性」が確保され、五感を介したプラスαの獲得に向かっています。当然、大きな個人差が生じます。木材セラピーも「能動的快適性」の範疇に含まれます。

図11 「受動的快適性」と「能動的快適性」 ※引用文献2)を改変

どのようにして個人差の大きい木材セラピーを楽しめばよいのでしょうか。最も大切なポイントは、「自分の好きな木材を選択すること」です。

木材にはいろいろな樹種がありますが、人によって好きなものは異なります。スギ材が好きな人もいれば、オーク材が好きな人もいます。大きさで分けても様々な種類があります。例えば「大きな木材」としては、木造家屋や木質化されたオフィスあるいは公共空間があります。机・椅子などの家具や檜風呂は「中程度の木材」に位置づけられるでしょうか。「小さな木材」としては、食器やおもちゃなどの木製品あるいは精油などが挙げられます。

同じ木材由来の刺激であっても、その人が好きであると感じている場合には、大きなリラックス効果が得られます。自分の好みの木材を能動的に探し、選択することが重要なのです。

私は、木製のスマートフォンケースを使用しています。手に馴染む触り心地が気に入っていて、ここ数年間、買い替えずに同じものを使い続けています。皆さんも、ぜひ自分の好きな木材を見つけて、昨今のウィズ・コロナや今後始まるポスト・コロナ時代の新しい生活様式の一つとして、木材セラピーを取り入れてみてください。

引用文献


1) Brunet M, Guy F, Pilbeam D et al.: A new hominid from the Upper Miocene of Chad, Central Africa. Nature, 418, 141–151, 2002
2) Miyazaki Y. Shinrin-yoku: The Japanese Way of Forest Bathing for Health and Relaxation.
Aster Publications(Hachette UK Company)
, London, UK, pp.192, 2018
3) 内閣府: 森林と生活に関する世論調査報告書, 2019年10月調査,
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-sinrin/gairyaku.pdf 2021年10月8日参照
4) 宮崎良文, 池井晴美: 「木材セラピー」 第6358223号(商願2020-118743) 出願日2020-09-25, 登録日2021-03-23
5) Ikei H, Song C, Miyazaki Y. Physiological effects of wood on humans: a review. J. Wood Sci. 63, 1–23, 2017
6) Ikei H, Song C, Lee J et al. Comparison of the effects of olfactory stimulation by air-dried and high-temperature-dried wood chips of hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa) on prefrontal cortex activity. J. Wood Sci., 61, 537–540, 2015
7) Ikei H, Song C, Miyazaki Y. Effects of olfactory stimulation by α-pinene on autonomic nervous activity. J. Wood Sci., 62, 568–572, 2016
8) Joung D, Song C, Ikei H et al. Physiological and psychological effects of olfactory stimulation with D-limonene. Adv. Hortic. Sci., 28(2), 90–94, 2014.
9) Ikei H, Song C, Miyazaki Y. Physiological effects of touching coated wood. Int. J. Environ. Res. Public Health, 14(7), 773, 2017.
10) Ikei H, Song C, Miyazaki Y: Physiological effects of touching hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa). J. Wood Sci. 64, 226–236 , 2018
11) Ikei H, Song C, Miyazaki Y: Physiological effects of touching sugi (Cryptomeria japonica) with the palm of the hand. J. Wood Sci 65, 48, 2019
12) Ikei H, Song C, Miyazaki Y. Physiological effects of touching the wood of hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa) with the soles of the feet. Int. J. Environ. Res. Public Health 15(10), 2135, 2018
13) Ikei H and Miyazaki Y: Positive physiological effects of touching sugi (Cryptomeria japonica) with the sole of the feet, J. Wood Sci. 66, 29, 2020
14) Nakamura M, Ikei H, Miyazaki Y. Physiological effects of visual stimulation with full-scale wall images composed of vertically and horizontally arranged wooden elements. J. Wood Sci. 65, 1–11, 2019
15) Ikei H, Nakamura M, Miyazaki Y. Physiological effects of visual stimulation using knotty and clear wood images among young women. Sustainability 12(23), 9898, 2020

日常生活の中で、木の香りを嗅いだり、手足で触れたり、木目を見ることで、生理的リラックス効果を得ることができる「木材セラピー」。
より効果を高めるには、自分の好みの木材を能動的に探し、選択することがポイント。

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