美しい空間を作るためには、家具も重要な要素。大工工事や工房で特注して作る家具「造作家具」なら、空間全体の統一感や住まい手に合ったサイズ・形の家具を実現できます。
東京都Y様邸の事例をもとに、建築家が造作家具の計画のポイントを解説します。
語り手:株式会社テラジマアーキテクツ 建築家 友常 芳隆
大工工事や工房で特注して作った家具「造作家具」
せっかく注文住宅を建てるなら、空間をすべて思いのままにデザインしてみたい。そんな方におすすめしているのが、家具を作ることです。特注、またはオーダー家具と一般的に呼ばれることもありますが、建築の世界では大工工事や工房で特注して作った家具のことを「造作家具」と呼びます。こうした家具は、壁や床に固定された、いわゆる造りつけの家具を思い描く方が多いのではないかと思いますが、最近は置き家具を製作する方も増えています。今回ご紹介するY様邸の事例では、オーダーキッチンとともにテレビボードや洗面化粧台、玄関収納、ダイニングテーブルまでデザインを揃えて造作し、邸宅全体の統一感を生み出すことに成功しました。
高品質でコストパフォーマンスに優れた家具を求める場合、造作家具は良い選択肢
オーダーメイドの家具と聞くと、高価というイメージを持つことが多いと思います。しかし、一定以上の品質を求める方にとっては、よほど高価な素材を使わない限り、実は大きな差がないということをご存じでしょうか。もちろん、部屋によっては安価な組み立て家具で事足りる場合もありますが、人目につく場所や滞在する時間が長い場所、例えばリビングや玄関などの空間においては、その空間の寸法や使う人にぴったりのサイズで作れるというメリットは非常に大きいと感じます。
Y様は当初から「家具はできれば作りたい」とお考えでしたが、費用面を心配されていました。しかし、せっかくなら長く使える上質なものが欲しい、すっきりと見せたい、とお考えだったY様にとっては、造作家具は良い選択肢となりました。
オーダーキッチンと一緒に作ると、デザイン・費用面にメリット
弊社で家づくりをお手伝いするお客様は、オーダーキッチンを採用される方がほとんど。そうした場合、家具もキッチンメーカーにまとめて作ってもらうことをおすすめしています。最近はキッチンが空間の中心にある間取りが人気ですので、キッチンと家具のデザイン、おさまりを揃えると、統一感のあるLDK空間を作ることができます。また、費用面でもメリットがあります。造作家具製作には工房での製作費、設置費用がかかりますが、キッチンと同じところで発注すると設置費用の部分のコストダウンが可能となります。
今回Y様邸で採用したのは、品質と対応の良さに定評のあるアルノさんというキッチンメーカーです。アルノさんは自社工房を持っていて造作家具の製作実績も多く、個人的に信頼しているメーカーのひとつです。
美しく心地よい、人とものの居場所をつくる家具デザイン
まず計画したのはテレビボードです。設計を進める中で、テレビボードの製作はぜひおすすめしたいと考えていました。
最近は壁掛けテレビの人気が高く、テレビボードを置かないことが増えていますが、空間の見た目、座りを考えると、ある方が良いと個人的に考えています。そして、置き家具のデメリットである壁との間のほこりなどの清掃性を考慮すると、造作し壁にぴったりつけて設置するほうが美しくて楽です。
Y様からはある程度の収納量も欲しいというご要望をいただいていましたので、脚を作らずボリュームと重量感のある四角いフォルムをデザインしました。空間に合わせて少しシャープで軽やかに見せるため、角の部分を「留め加工」にしてエッジが効いたデザインに仕上げています。こういう細かい部分の仕上げは私のこだわりです。
テレビボード設置場所の隣に大きなFIX窓が付くことが決まっていたので、「ヌック」のような機能を持たせたいと考えました。「ヌック」というのは窓前に作る、ベンチのような場所。奥行き45センチくらいの座れるスペースです。バルコニー側に座れば外の景色を愉しめますし、日当たりのいい場所ですので、冬にはぬくぬくできる気持ちのいい場所になるだろうな、と想像して。
そのために両端は少し長めにとって、テレビをおさめてもベンチとして使える余裕のあるサイズにしています。
家具はモノだけでなく、人の居場所を作るものでもあります。だから、私は素材感、手触りも重要だと考えています。この「ヌック」風テレビボードも、心地よい居場所になるように素材にこだわりました。
テレビボードの天板には、「フォルボ・ファニチャーリノリウム」という亜麻仁油、ロジン(松脂)、木粉、石灰粉、天然色素などの100%天然の原材料から作られている素材を使っています。しっとりとした手触りの良さが決め手でした。汚れやすい扉の部分には清掃しやすいメラミンを使っています。
素材選びはもちろん意匠においても重要です。ダイニングテーブルは、天板にはテレビボードと同じ「フォルボ・ファニチャーリノリウム」を、小口(横面の部分)には突板のオークを使いました。これはキッチンの木の部分と揃えています。他にも、テーブルの天板とリビングの階段の手すり、脚の部分と階段の鉄骨の仕上げを揃えたり、玄関の壁付けの収納と洗面カウンターの素材を揃えたりして、邸宅全体の統一感を出すために気を配りました。
造作か既製品か 最適解は暮らし方によって異なる
造作家具を計画する場合、出来れば家づくりの序盤、間取りが確定する頃にはどんなもの作りたいか、ある程度設計士に伝えてもらうとスムーズです。置き家具はいつでも対応できますが、造りつけの場合は決めるのが早ければ早いほど、空間に合わせて綺麗に仕上げられます。
作るかどうか迷った場合は、下地だけとりあえず準備しておいて、後から造作家具を設置できるようにしておく、という方法もあります。よほど重量があり堅固な下地が必要なものでなければ、仮の下地と柱や梁に長いビスを打ち込み固定する、などの方法を採れば対応できることが多いはずです。
造る家具のイメージを考える時には、家具屋さんやインターネット、雑誌などで近いものを探して提示してもらえると、擦り合わせしやすいと思います。
また、ご家族のライフスタイルや性格によって、使いやすい形をご提案することもできます。例えば、収納があまり得意じゃないなら扉を増やして、どこになにを仕舞うか、予め場所を決めると使いやすくなります。
普段どんな風に家具や収納を使っているかはもちろん、片付けや掃除の得意不得意など、家族以外には絶対にわからないような部分にこそ、家具作りのヒントがあります。恥ずかしがらずに教えてもらえるといいですね。
造作家具を色々とご紹介してきましたが、置き家具の方がおすすめの場合もあります。代表的なのは屋外家具。室内の場合、考慮すべきは紫外線による色褪せくらいですが、屋外の場合は熱や寒さ、雨や雪への対策など作る際に意識すべきことが多いため、より素材選びが重要となります。また、壁付けにすると接触部分から水が入り躯体を痛めてしまう可能性もあります。屋外なら、汚れたら買い替えられる置き家具のほうが使いやすいと思います。
また、暮らし方が今後変化することが分かっている人、模様替えがお好きな人はテレビボードのような大型の造作家具は避けて、洗面コーナーやキッチン、玄関周りの収納など、将来的に使い方が変化する可能性が低いものだけを造作するほうがいいかもしれませんね。
素材やサイズ、色などが綺麗に揃った空間は、本当に気持ちがいいものです。そして、使う人の体の大きさや使い方によって自由に計画できる造作家具は、既製品と比較できないほど快適に使用できます。予算に応じて対応できますし、一生に一度の家づくりですから、ぜひチャレンジしてみてください。家具作りは建築家にとっても楽しくて挑戦しがいのある仕事のひとつ。個人的には、ソファ、ダイニングチェア辺りを作ってみたいと密かに思っています。ご興味のある方、お待ちしております!
建築家 友常 芳隆
家づくりは、そこに住まう人のライフスタイルを作ることと同じだと考えています。 住まう人の多種多様なライフスタイル・趣味嗜好に対し丁寧にお話しを伺いながら、住まう人が暮らしやすく、ワクワクする住空間を創るお手伝いをさせて頂きます。
メソッド
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