珪藻土や漆喰だけではない自然素材
珪藻土や漆喰などの自然素材は少し前に大流行し、今でも根強い人気があります。調湿性能はもちろん、左官の味わい深い質感も魅力ですね。
日本古来の壁材といえば漆喰。日本の多湿な気候に適しているものの、美しく維持することが難しく費用も一般的な壁材より高価であることから、全ての方におすすめとは言えません。
最近は次々に新しい素材が登場し、価格も手ごろで施工しやすいものが増えてきました。
今回ご紹介するのは、これまでにない新しい素材を塗料として取り入れたI様邸の事例です。自然素材にご興味のある方に、ぜひ参考にして頂ければと思います。
ナチュラルな空間に似合う天然素材
白い壁に木の質感が優しい印象の、I様邸のリビングダイニング。ここで使用しているのは、エッグペイントという新しい塗料です。
エッグペイントは、マヨネーズ工場で発生する大量の卵の殻を材料とした天然塗料。費用面ではクロスよりかかるものの、珪藻土や漆喰と比較すると安価に抑えることができ、ローラーで仕上げればクロスのように継ぎ目が出ることがありません。一般的な塗料と異なり、卵の殻、というエコな素材ならではの安心感もあり、自然素材には魅力を感じるけれど、珪藻土や漆喰は敷居が高いとお考えの方にもおすすめできるものだと思います。
今回はI様から特別にご要望があったわけではありませんでしたが、ナチュラルモダンな空間をより上質に仕上げるため、クロスより塗装、そして出来れば自然素材を用いたい、ということをこちらから提案し、採用していただきました。エッグペイントには細かな凹凸があり、ナチュラルで美しい仕上がりが魅力です。今回採用したのは塗料ですが、同様に卵の殻を使用した漆喰や珪藻土、塗り壁風のクロス、タイルなど様々なバリエーションの製品があります。特に卵漆喰は卵の多孔質性を利用した吸湿性の高さや脱臭などの機能性があり、これまで廃棄されてきた卵の殻を再利用した製品ということで、住む人にも環境にも優しいもの。個人的に、今もっとも気になっている素材のひとつです。
補修が難しい自然素材の取り入れ方
自然素材に魅力を感じる方が、まず真っ先に思い浮かべるのは漆喰や珪藻土でしょう。いずれも高い調湿性などの優れた性能を持ちますが、補修が効かない、ひび割れしてしまうなどのデメリットもあります。汚してしまった場合の補修を考慮すると、クロスや塗装が手軽です。今回採用したエッグペイントの場合、性能面では漆喰や珪藻土にかないませんが、仕上がりの美しさを長く維持したい、とお考えの方には充分選択肢に入るものと思います。
それでもその機能性に魅力を感じ、左官仕上げの素材を使いたい、という方におすすめなのは、天井のみに使用すること。壁に比べて手で触れることが少なく、汚れにくいためです。特に、ウォークインクローゼット、シューズインクローゼットなど、湿気が篭りがちな空間の天井に使用することで、調湿機能と脱臭機能を充分に得ることができると思います。逆に避けたほうがいいのは水廻りや手を触れて汚しやすいスイッチ廻り、子ども部屋など。トイレや洗面所は、調湿・脱臭の効果は期待できますが、汚れやすい空間のため使い方に工夫が必要です。空間ごとに適切な素材を選んで、上手に使い分けていただくのがよいと思います。
塗り方ひとつで雰囲気が変わる
エッグペイントのような新しい素材の場合、施工できる職人さんが限られてしまう場合がある点にも注意が必要です。今回、I様邸ではメーカーに相談し、エッグペイントの経験がある塗装職人さんに作業をお願いしました。塗り方、乾かし方など素材ごとに癖がありますので、もし依頼する際には適切な職人さんを選んでもらえるよう、建築家に相談することをおすすめします。
自然素材といえば一般的には左官仕上げのものが多いかと思いますが、コテによる仕上げは、塗り方によって仕上がりが大きく変わります。私が漆喰や珪藻土を採用するとき、必ず建て主さんにあらかじめサンプルで塗り方を選んでいただき、現場でも改めて塗り方を確認していただくようにお願いしています。施工を担当する職人さんによっても柄の出方が変わるため、仕上がる壁はまさに唯一無二のもの。正解の塗り方はなく、住まい手の方が気に入ってくださるかどうか、が決め手となります。せっかく自然素材にこだわるのでしたら、末永く愛していただけるように、と思いながら、慎重に仕上げ方を決めていくようにしています。
もし今家づくりを進めていて、左官や塗装の仕上げを検討されている方は、ぜひ建築家に相談し、現場を良く見せてもらうことをおすすめします。思ったとおりの仕上がりを実現するにはもちろんのこと、こだわった部分が仕上がっていく過程をご覧いただけるのは注文住宅ならではですし、お住まいへの愛着も高まることと思います。そして、職人さんは建て主さんの顔を見ると、この人のために頑張って仕上げよう、という思いを強めることが多いそう。いいことづくめですね。
壁の仕上げは空間の雰囲気を大きく左右します。真っ白の壁だからクロスでいい、と言わず、ぜひ色々な素材を見て、お気に入りを選んで楽しんでいただけたら、と思います。
建築家 加藤 直美
季節を感じられ、ぬくもりに包まれ、家族の笑顔が絶えない住まいづくりを心掛けていきたいと思います。
Our Works記事で紹介した邸宅
メソッド
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