収納は使い方にあわせることが大切
建て主さんとお話をしていると、できるだけ大きな収納がほしいという要望をいただくことが多々あります。住まいにおいて収納は大切な要素のひとつ。その使い勝手が、暮らしの質を左右するといっても過言ではありません。
ただ、私たち建築家が収納をデザインするとき、その広さだけではなく、住まい手の方がどのようにその収納を使いたいのか、ということがとても重要な要素になります。
今回は、神奈川県Y様邸の事例を通じて、よりよい収納の考え方をご紹介したいと思います。
Y様のご趣味は洋服。家づくりの初期段階から、余裕のある収納がほしい、という要望を受けていました。たくさんの洋服をお持ちである、というだけでなく、そのひとつひとつのコレクションにこだわりをお持ちであることは、打ち合わせの際の服装などからすぐにわかりました。
そこで、「見せる収納」をテーマとし、単純にたくさん収納するだけでなく美しく保管できること、服を選ぶ作業をしやすい空間にすることを課題として設計することにしました。
服を愛する住まい手のためのクローゼット
Y様は洋服、特にスーツを多数所有していらっしゃいます。
そこで、まずウォークインクローゼットには、スーツを格納しやすいハンガーラックを中心に設置しました。その奥行きは60cmに設定。そうすることで、スーツを掛けたときに奥に肩が当たることがなく、通路にはみ出さずに収納することができ、取り出しも楽にできます。パイプの高さも、すそが触れないよう高めに設定し、スーツに負担をかけずに収納できるようにしました。
シャツ類については、以前の住まいでは畳んで収納していたようですが、できればラックに掛けたい、という要望があったことから、ハンガーラックの収納量を検討しました。
このウォークインクローゼットでは収納が向かい合うように設置されており、収納の間の通路の部分は広めに設定しています。服をラックから取り出し、コーディネートを考えるという動作がストレスなくできます。たくさんのスーツと小物をただ格納するだけでなく、Y様が毎日の洋服選びを楽しめるよう工夫しました。
使うたびに気分が上がる、ショップのような小物収納
打ち合わせの度に素敵なアクセサリーを身につけていらっしゃったY様。また、たくさんのメガネのコレクションをお持ちであることを伺っていました。そこで、造作の収納家具の一部に、コレクションに合わせたジュエリーケースを作ることを提案しました。
ジュエリーケースは既製品も販売されていますが、造作の場合はコレクションの数に応じてケースを増減でき、デザインも自由。飾り方にこだわりがあればそれに合わせることもできます。また、使い始めてから「こうできないか」というご相談があった場合でも、可能な範囲でカスタマイズすることもできるというメリットもあります。
今回のジュエリーケースでは、立体感のあるアクセサリーを引き立たせるため内部の照明にこだわりました。柔らかな明かりが灯るとその陰影が引き立ち、コレクションをより美しく見せてくれます。そしてケースの枠の部分は可能な限り薄くし、存在感をなくすことで「非日常感」を演出しています。ショップのそれのような、特別な雰囲気を出しました。
また、アクセサリーだけでなくメガネを十分に収納できるよう内部のケースのサイズも細かく調整し、使用頻度の高いものがすべて収まるようにしました。
内側の張地もY様の好みに合わせて選んでいただき、世界にたったひとつのY様のためのケースに仕上げています。
建築家と会話を重ねて、「なにか」を伝えることが大切
家を建てるとき、建て主が収納の詳細な仕様やおさまりを検討することは難しいことです。
まず、どんなものを収納し、例えばコレクションを眺めたいなどどのように使いたいのか、隠したい、日に当てたくない、湿気を避けたいなどの収納に求める機能を考えていただけたら、と思っています。考えがまとまらない場合は、建築家である私たちにお話を聞かせてください。
家づくりを始めたばかりのお客様にいつもお願いするのは、「どんなものでもいいので、『気になったもの』を教えてください」ということです。雑誌の中のなんでもない1ページでも、好きな小物でも、本の装丁でも、おいしかった料理でも、旅先での風景でも、何でもかまいません。そうした要素から建て主の方の好みを知って、住まいの形にまとめあげることが建築家の仕事と考えています。会話の中からあぶりだされた「好み」は、家づくりにおいて重要な指針になります。
私は設計しているとき「こういうのが好きだろうなぁ、きっと似合うだろうなぁ」と考えながら、仕上げ等の検討をしています。いつも建て主さんのことを考えているので、家づくりが終わると寂しくなるくらいです。是非、たくさん会話をして、一緒に家づくりを楽しみましょう。
建築家 橋井 慶
自然と笑顔が溢れる温かい空間でありつつ、そこに居ると感性が刺激されるような場を創っていきたいと思います。 お施主様の理想の空間を実現する為、愛を持って建築に向き合っていきます。
メソッド
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