さあ、何をしよう?用途自由の多目的ルーム
今回ご紹介するのは、東京都・大田区のA邸です。
最大の特徴は、東と西で2メートル近くの高低差がある広い敷地を活かして、地階に設けた「秘密基地」。ガレージ裏のデッドスペースにつくった、家族が自由に過ごせるくつろぎの空間です。
ここで過ごす時間が長いのは、ご主人と2人のお子さん(竣工当時は小学生、現在は中学生)。
初めはご主人のゴルフ練習を主な用途として想定し、スイングするのに必要な天井高を計算した上で設計、床にはいくつかホールもあけました。ゴルフシミュレーターを使用するためのプロジェクター&スクリーンも完備しています。
しかし、いざ出来上がってみると、やはりお子さんたちが黙っていませんでした(笑)。バッティング練習、卓球、映画鑑賞に読書……。広々とした室内には、本棚や卓球台が次々と運び込まれ、それぞれが思い思いの過ごし方を楽しむようになったそうです。
ご主人にとっても、ここはゴルフ練習場としてのみならず、趣味のスピーカー製作や音楽鑑賞に興じる場所でもあるとのこと。ゴルフ練習スペースのすぐ脇には、手づくりのスピーカーが設置されています。音響環境へのこだわりもひとしおで、秘密基地の床には、オーディオ専門のアース棒をかなりの本数打ち込み、配線を工夫しています。
家族一人ひとりの趣味を思う存分詰め込んだ、夢の空間です。
「家族一緒」にもいろいろな形がある
秘密基地には天窓を設けており、地下室でありながら、日中は自然光が差し込みます。居心地は抜群で、ひとたび籠り始めると、皆なかなか出てこないのだそう。そのため、「地下室タイムは1日○時間、家事のお手伝いが終わってから」とルールを決めているそうです(笑)。
地階の秘密基地に留まらず、2階にはリビング・ダイニングとその奥に設けた和室、3階には子ども部屋……Aさん邸には、家族が自由に過ごせる“居場所”がたくさんあります。各空間の用途を限定しすぎず、余白を残すことによって、いろいろな場所で思い思いに寛げる、包容力のある住まいとなっています。
Aさんご一家は、ご家族そろって家で過ごす時間が長いご家庭です。しかし、同じ空間で同じことをして過ごすというよりは、同じ空間にいながらも各々が自由に過ごすスタイルを好まれていました。
趣味部屋が家族共用というのは比較的珍しいケースですが、「家族の気配を感じながらも、それぞれの趣味を楽しみたい」というAさんご一家にとっては、最適な空間と言えます。結果的にこの「秘密基地」は、家族が自然と集まる、第二のリビングのような存在となっているようです。
このように、「家族が一緒にいる時間が長い」という特徴ひとつとっても、「どう過ごしたいか」によって、最適な空間のつくり方は異なってきます。家族と日々をどう過ごしたいか――住まいづくりは、家族一人ひとりの関係性をあらためて見つめ、より心地良い毎日を送るための方法を考える機会にもなりますね。
・
・
・
・
次回のテーマは、「プライバシーを守る中庭」です。都市の住まいを考えるにあたって欠かすことができない、プライバシーの保護。外からの視線を上手く遮りつつ、いつも光や風を感じながら暮らすことができる中庭の魅力をご紹介します。お楽しみに。
一級建築士 深澤 彰司
株式会社テラジマアーキテクツCEO
東京理科大学卒業。2004年テラジマアーキテクツ入社。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手掛けた住宅は300棟以上。デザインと生活空間の両立した住宅、お引渡し後も長く安心して住まえる住宅を目指し、使い勝手や動線に配慮した設計、お客さまと一緒につくる過程を大切にしている。
ビジョン
-
建築家の視点 敷地の「難点」を「利点」に変えるスキップフロア
住宅のフロアを半階ずつ上げた中層階をいくつか用いて全体を構成していくスキップフロア。近年、デザイン面のダイナミックさや機能面から人気を集...
-
建築家の視点 30年後も快適な家を、いま建てるには
約30年といわれている日本の木造住宅寿命(※1)。新築を好む国民性や、一代で住み終わる慣習性によると考えられていますが、メンテナンスを続ける...
-
建築家の視点 住宅性能と心地よさは別? 自立型循環住宅に教えられること。
2050年の脱炭素社会へ向けて、日本の新築住宅に求められる省エネ性能は年々レベルの高いものへとシフトしています。2025年4月からすべての新築建造...
-
建築家の視点 意外と知られていない、パッシブデザイン住宅のこと。
近年よく聞かれる「パッシブハウス」や「パッシブデザイン住宅」と呼ばれる家。カーボンニュートラル(CO₂排出量実質ゼロ)の社会やSDGsを達成する...
-
建築家の視点 人生をより豊かにする”自分スイートな家”の考え方
何のために家を建てるのか? これは、一戸建て住宅を構想するとき軸にしておきたい指針です。今回は「ペットと自分にとって居心地よい環境の家」を...
-
建築家の視点 自然とつながり、”ゆらぎのくつろぎ効果”を取り入れる
都市部の住宅密集地帯では、プライバシーの確保を優先すると住まいが閉鎖的になってしまうことも。しかし、美しい景色や緑が豊富にある環境なら、...
-
建築家の視点 リビングとダイニングを分けてもっと快適に!暮らしに合わせた間取りのアレンジ
プランニングで重要なことは汎用性より、住み手のライフスタイルに合わせたオリジナル性。例えばLDKが一体となった間取りが一般的ですが、 暮らし...
-
建築家の視点 家の中で混在する住・働・遊を切り分ける。
新しい生活様式が幕を開け、私たちの暮らしの中心となった「家」。これまで家族が生活し、くつろぐ場であったところに、オフィスや遊び場の機能が...
-
建築家の視点 “個を確立する”ワークスペースの考え方
感染症拡大防止のため、2020年の”ニューノーマル”となった在宅勤務。「家で快適に働く」という新しい需要が高まり、ワークスペースは必ず要る空間...
-
建築家の視点 動線の分離:職住一体・二世帯
仕事と暮らし、親世帯と子世帯。異なる2つのものを融合・共存させる住まいは、一つひとつの家族に合わせた「動線設計」がカギになります。