趣味を満喫する夢の空間
新しく家を建てる方の多くが「趣味を思う存分楽しめる部屋をつくりたい」と願うのではないでしょうか。
今回ご紹介する東京・品川区のU邸は、趣味と日々の暮らしを両立する邸宅です。
ご夫婦2人とお子さまの3人でお住まいのU邸は、地上3階建て。1階がガレージ、2階がLDKと水回り、3階が寝室となっています。このうち1階と3階に、ご主人の趣味空間が広がっています。
ご主人の趣味は、ツーリングとトレーニングです。
お仲間と一緒にツーリングを楽しんだら、そのままご自宅のガレージに集合。自転車を停めたら、ガレージ内に設置したバーカウンターで、靴を履いたままお酒を楽しみます。
車2台分と広いスぺースには、ご主人の愛車のほか、大切にしている自転車、自転車関連アイテムのコレクション、カスタマイズ用のパーツがずらり。自転車を眺めながら、お酒を片手に、お仲間との会話に花を咲かせる――そんな時間が至福の時だそうです。
自転車のカスタマイズもお好きなご主人は、ここに籠ることもしばしば。一角にはDJ機器も設置してあり、ご夫婦共通の趣味である音楽を楽しみながら、時間が経つのも忘れて趣味に興じられています。
まさに、自転車とともにあるライフスタイルを最大限に楽しむための空間と言えますね。
もう一つのご趣味、トレーニングを行うのは、3階の一角に設けたトレーニングルームです。こだわりのマシンを設置するために十分な天井高を確保した、完全オリジナルの空間です。壁に設けた大きな鏡を見て、正しいフォームを確認しながらワークアウトに励むことができる、本格ジム仕様となっています。
生活動線との切り分けがポイント
お施主様のご趣味は、デザイン・設計の初期段階で伺います。家づくりとは、「これから、どんなふうに暮らしていきたいか」を考えることですから、趣味については、打ち合わせの中で、優先度の高い要望として出てくることが多いです。Uさんも、ご自身から積極的に趣味についてお話しくださいました。
その際に気をつけなければいけないのは、「それは誰の趣味なのか?」ということ。つまり、家族の中でお一人だけの趣味なのか、それとも家族共通の趣味なのか、ということです。それによって、住まい全体における配置や、動線のつくり方はまったく異なってきます。
Uさんの場合、ツーリングはご主人だけの趣味。ですから、ご夫婦の日常の生活動線とできるだけ交わらないよう設計しました。ガレージにはツーリング仲間も出入りされますから、生活動線と一体になっていると、奥さまにとってはストレスになりかねません。ガレージの出入り口と通常の玄関は完全に切り分け、ガレージ内にはトイレ・洗面台も設置することで、ツーリング関係の来客はガレージだけで完結できるようにしています。
同じ来客でも、ご夫婦共通のご友人の場合は、2階のLDKをメインに活用されます。リビングと隣接したバルコニーをアウトサイドダイニングとして活用し、ここでお茶やバーベキューを楽しまれているそうです。
趣味、特別な日の来客、そして日常生活。家族一人ひとりのライフスタイルをイメージしながら、住まい全体を設計します。せっかくの趣味空間ですから、他のご家族の心地良さにも配慮しながら、気兼ねなく楽しみ続けるための工夫が必要です。
自分だけで楽しみたいのか、家族や友人と一緒に楽しみたいのか、誰かに見せたいのか、見せたいけれどむやみに触れて欲しくはないのか――趣味の“クローズド”度合いによって、他の居室との位置関係や、間仕切りの仕方、防音や遮光といったつくりを決めていきます。
趣味の話は、ぜひ率直に。
長く楽しめる趣味空間をつくるためには、その趣味について、できるだけ詳しく伺うことが大切だと考えています。もし、Uさんの趣味をただ「ツーリング」とだけ伺っていたら、バーカウンターやDJ機器を設置することにはならなかったでしょう。また、壁面のディスプレイも「どんなものを置くのか?」まで詳しく伺った上で、最適な寸法を設計しています。
どんなふうに使うのかを想定しながらつくることが、その空間を満喫し続けるためのカギなのです。
トレーニングルームも、設置するマシンによって必要なスペースが変わります。「何畳あればよい」というような単純な話ではなく、マシンによって縦横幅を考える必要があります。場合によっては、床の補強も必要です。どんなマシンを置きたいのか、予め練っておいたほうが、使いやすいトレーニングルームになることは間違いありません。
「書斎」「ガレージ」「シアタールーム」――こうした一般的なキーワードではカテゴライズできない、実に多様な趣味空間をこれまでにつくってきました。注文住宅とは、そもそもオリジナリティの強いものですが、なかでも趣味空間はその最たる例です。まさに“超個人的”。個人の個性や理想、こだわりに合わせて一からつくる、フォーマット化することができない空間です。
ですから、大切にしている趣味をお持ちの方は、決して恥ずかしがることなく、できるだけ詳しく、そして具体的に、建築家に話していただきたいですね。実際の楽しみ方がリアルにイメージできればできるほど、長く楽しめて、かつ家族の暮らしの快適さを損なわない住まいの実現につながります。
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次回のテーマは、「家族のための秘密基地」です。家族の誰もが、好きなときに、好きなように過ごせる自由な部屋。ほんの一時、日常生活から離れてくつろいだり、趣味に没頭することができる、特別な空間のつくり方をご紹介します。お楽しみに。
一級建築士 深澤 彰司
株式会社テラジマアーキテクツCEO
東京理科大学卒業。2004年テラジマアーキテクツ入社。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手掛けた住宅は300棟以上。デザインと生活空間の両立した住宅、お引渡し後も長く安心して住まえる住宅を目指し、使い勝手や動線に配慮した設計、お客さまと一緒につくる過程を大切にしている。
ビジョン
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