住まいのあり方が多様化し、それぞれの価値観、ライフスタイル、またライフステージに合わせて、選択肢は広がり続けています。こうした中、「自分らしい家をつくること」の魅力を、また「自分らしい家で暮らすこと」の価値を、あらためて多くの方に知っていただきたい――そんな思いから、「More Life Lab.」は生まれました。

生き方・暮らし方を自ら定義し、つくり上げようとする人。
その価値観に賛同し、肯定したい。

上質と個性を重んじ、人生を通じてそれを謳歌したいと願う人。
その思いに寄り添い、実現を後押ししたい。

家が人に与えてくれる幸せや可能性を誰よりも信じ、住まいに対するお客さまの思いやこだわりと誰よりも深く向き合ってきた「家づくりのプロ」として。上質かつ自分らしい家で、心満たされる豊かな暮らしを送りたいと考えるすべての方に、家づくりにまつわる知識と教養をお届けします。

ロゴマークについて

「M」の右斜め上に伸びるラインが象徴するのは、「もっと自由に、自分らしく」という、住まいづくりの考え方。左下へ伸びるラインは、光と風のベクトルを表し、自然を取り入れる暮らしの心地良さを連想させます。上下に広がる造形が、「もっと自由に、自分らしく」と望む人の周りに広がる空間の存在を感じさせます。


Presented by TERAJIMA ARCHITECTS

テラジマアーキテクツは、創業以来60年にわたりデザイン住宅を手がけてきた、住宅専門の設計事務所+工務店です。
お客さまのライフスタイルに合わせたオーダーメイド住宅をつくり上げています。

東京都・神奈川県で家を建てることにご興味のある方は、下記のウェブサイトも併せてご覧ください。
建築家による設計・施工実例を多数ご紹介しています。
https://www.kenchikuka.co.jp/

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More Life
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[住まいを語り尽くすゲストトーク]

バンドネオン奏者・小松亮太の「住まい論」

バンドネオン奏者

小松亮太

一級建築士

深澤彰司

毎回特別なゲストを迎え、住まいへのこだわりを語り尽くす対談企画。新しい価値を世に発信するクリエイティブな人々は、自分らしい空間を自らつくり上げることにも長けています。ゲストそれぞれが感じる「豊かな暮らし」「自分らしい住まいづくり」を建築家・深澤彰司がじっくり掘り下げます。今回のゲストは、世界的バンドネオン奏者として長年にわたって日本タンゴ界を牽引し続けている小松亮太さんです。

バンドネオン奏者 小松亮太

1973年生まれ。東京都出身。 両親ともタンゴ奏者の家庭で育ち、14歳よりバンドネオンを独習。1998年、ソニーからCD『ブエノスアイレスの夏』でデビュー。世界的なバンドネオン奏者・作曲家として幅広く活躍。2021年に新著の出版を控える。
https://ryotakomatsu.net/

◎新著『タンゴの真実』
発売日:2021年2月予定 出版社:旬報社

◎アルバム「ピアソラの芸術」 
発売日:2020年12月9日 発売元:ソニーミュージックレーベルズ
http://www.sonymusic.co.jp/artist/RyotaKomatsu/discography/SICC-40109

◎小松亮太タンゴ五重奏 with 彩吹真央
2020年12月19日・20日 @シアター1010(東京)
https://www.t1010.jp/html/calender/2020/384/index.html

◎小松亮太 カルテット ニューイヤーコンサート
2021年1月17日@タウンニュースホール(神奈川)
https://townnews-entertainment.jp/archives/8457

◎小松亮太 アルゼンチン・タンゴ・コンサートwith 寺井尚子
2021年1月30日(土)
八千代市民会館大ホール(千葉)
https://ryotakomatsu.net/liveinfo/609.html

◎小松亮太&オルケスタ・ティピカ~アルゼンチン・タンゴ・コンサート~
2021年2月19日 @東大和市民会館ハミングホール(東京)
https://www.humming-hall.jp/event/200523.php

日本におけるバンドネオンの牽引者

小松 :
今回は、声をかけてくださってありがとうございます。いきなりマニアックな話になっちゃうんですけど……僕は、音楽の世界ではかなり“特殊”な存在だと思います。弾いている楽器が特殊だということと、やっている音楽が特殊だという2つの意味で。
深澤 :
「バンドネオン」(※1)ですね。よく、アルゼンチン・タンゴで使われる。
小松 :
タンゴというと、「情熱の」「哀愁の」という枕詞で語られがちですが、それは踊りのイメージが強いと思います。僕はタンゴ・インストゥルメンタルなので、多くの方が持っているタンゴのイメージとは少し違うかもしれません。
深澤 :
たしかに、いろいろなアーティストとコラボレーション(※2)されているのを拝見すると、そうした従来のタンゴのイメージとは違うものを感じます。まったく新しい音楽を目の当たりにしているような、新鮮さがある。バンドネオンを始められたきっかけはなんだったのですか?
小松 :
両親がともにタンゴミュージシャンだったんです。父はギターで、母はピアノ。だから、子どもの頃からタンゴが耳に馴染んでいました。中学生のとき、たまたま1台のバンドネオンが自宅に持ち込まれ、遊びで触り始めたのがバンドネオンとの出会い。いわゆる“鍵っ子”で一人の時間が長かったから、ボタンを押して音をあれこれ鳴らしているうちに、自然と覚えていったんです。
そうしたら、周りの大人たちが喜んでしまって(笑)。その頃、日本ではバンドネオン奏者が減少の一途をたどっていたもので、担い手として期待されてしまったんですよ。
※1
アルゼンチン・タンゴで用いられることの多い楽器で、発祥はドイツ。1840年頃、ドイツの楽器製作家であるハインリッヒ・バンドによって考案・製作されたものが始まりとされる。左手が低音部、右手が高音部に分かれており、左33/右38の計71のボタンが配置されている。蛇腹を押した時と引いた時で音が異なる押引異音の構造が一般的。
※2
小松さんは、他のミュージシャンや歌手とも積極的にコラボレーションしている。過去の共演歴に、葉加瀬太郎、THE BOOM、GONTITI、織田哲郎、小曽根真、大貫妙子、NHK交響楽団、イ・ムジチ合奏団など。
深澤 :
ボタンを押していたら自然と……とおっしゃいましたが、そう簡単に演奏できるものではないですよね(笑)。私はトランペットをやっていたことがあるんですが、演奏どころか「音を出す」だけでもなかなか苦労した思い出があります。
小松 :
トランペットは難しいですよね!バルブを押して息を吹き込めば音が鳴るとは限りませんし、吹く強さで音が変わる。一方、バンドネオンはボタンを押せば音が鳴りますから、そういう意味ではラクな楽器だと思います。
ただ、ボタンの配列が難しい。ドレミファソラシドの位置を覚えるのが大変で、これで逃げちゃう人が多いのは事実。しかも、蛇腹を引っ張った時と縮めた時とでは、同じボタンを押しても鳴る音が変わる。その習得の難しさから「悪魔が発明した楽器」なんて呼ばれることもありますね。
でも、どの楽器もそれぞれに大変だと思うんですよ。たとえばバイオリンなんて、顎に挟む練習から始まる。まずその痛みに耐えるところから、ですからね。
深澤 :
私の子どもは、実はバイオリンを習っているんです。
小松 :
それはさぞ大変でしょうね……!妻がバイオリニストなので、よくわかります。とはいえ、何かしら楽器ができるというのは、やっぱりいいものですよね。建築家の方と、何からお話ししたものかと思っていましたが、共通点があって安心しました(笑)。

「音がしっかりと響く」音楽家の理想的な仕事場

  
深澤 :
このご自宅は、いつ頃建てられたんですか?
小松 :
設計がスタートしたのは2006年、竣工は2007年でした。その前は、下町にある狭くて古い家に住んでいたんですが、いろいろとタイミングが重なって、家を建てることになりました。
深澤 :
今、お話を聞かせていただいているこの部屋は、スタジオとしても使われるんですよね。吸音板ではなくコンクリートづくりになっていて、意外に思いました。
小松 :
この家は完全に、バイオリニストである妻主導でできた家なんです(笑)。バイオリンはあまり音が大きい楽器ではなく、良い音を出すには環境が大事です。「コンクリート壁で、音がよく響く部屋にしてほしい」というのは、最初から明確な要望としてありました。
深澤 :
そこが珍しいなと思いました。スタジオは、残響音が残らないように設計することが多いですよね。
小松 :
僕は、それを不思議に思っているんですよ。日本だけじゃないかなあ……どうして日本のスタジオは、どこもかしこも吸音板を貼っているんでしょうね。
もしかすると、日本文化にそのルーツがあるのかもしれません。尺八や三味線といった和楽器は畳の部屋で演奏することが想定されていて、日本人にとっては「音が響かないようにするのが良いこと」という既成観念があるんじゃないかなと思っています。アルゼンチンを含めヨーロッパの影響を受けた国では、建物の中に入ると、天井が高いことと吸音板がなくて音がよく響くことに驚かされます。
深澤 :
私自身、スタジオや音楽室は防音・吸音する工夫が必須だと思っていました。演奏する楽器によっても、ふさわしい部屋のつくりは異なるのですね。天井が高く、音がよく響く――この部屋は、バイオリンに最適な演奏環境が具現化されていますね。
そうした機能的なこと以外に、家づくりにおいてこだわりはありましたか?
小松 :
「せっかくなら、ちょっと個性的な家に住みたい」というのが妻の希望でした。設計の際は3社コンペをお願いしましたが、皆さんそれぞれ一癖あるユニークな家を提案してくれました。お願いする設計事務所を決めたあとも、僕らの要望を汲みながらさらにアイデアを膨らませてもらったり、最終的にどのアイデアをどう具現化するのか詰めていったり……家づくりには、結構時間をかけましたね。
深澤 :
かけた時間と重ねた打ち合わせの回数だけ、密度が濃いものに仕上がっているんでしょうね。でも、「建築家に要望を伝える」ということの最初の一歩を踏み出せない方はとても多いんですよ。
家づくりに関してはほとんどの人が“素人”。それは当たり前のことなのですが、知識がないのに「ああしたい、こうしたい」と主張していいものかと気後れしてしまったり、建築家に一体何を伝えたらいいのかわからないという人が多いんです。
小松 :
僕自身には、具体的な理想像や要望がこれといってなかったし、あったとしても言語化するのはたしかに難しかったと思います。だから、信頼できる設計事務所にお任せできたのが良かったんじゃないかと。
深澤 :
建築そのものは、技術的に行くところまで行き着いた成熟産業ですが、こと注文住宅におけるお施主様と建築家のコミュニケーションは、非常に属人的で、極めてパーソナルなものなんです。だから、「こんなに個人的なことを伝えていいの?」と戸惑われる方は少なくありません。
でも、その個人的な理想や要望が、心地良い住まいをつくる上で重要なヒントになります。小松さんの奥さまのように、「こうしたい」という要望がある方は、どんなことでも遠慮せずにどんどん伝えてもらいたいと思っているんです。
とはいえ、ディテールまで細かく指示されてしまうと、つくり手として身動きがとりづらくなることもあるのですが(笑)。
小松 :
僕も、クライアントからの依頼で作曲することがあるので、よくわかります。建築家も、ある種アーティストですもんね。
深澤 :
お施主様の要望を踏まえた上で、いかに一歩先回りしたものを提案できるか、我々ならではの表現をできるかが、腕の見せどころだなと。
小松 :
要望に応えるだけでは、オリジナリティが出ませんからね。つくり手の“らしさ”を、エゴがばれないように入れ込むのも、技のひとつですよね(笑)。
深澤 :
線を引く側(設計者)の理論と、つくり手(施工者)の理論のギャップを埋めていく過程も、心地良い住まいをつくる上で重要だと感じています。「お施主様の暮らしに合わせるなら、こんな空間構成が望ましい」という設計の理論と、「物理的に無理なく、余裕をもった施工によって安定感のある仕上がりにしたい」という施工の理論。両方あって初めて、真に心地良い住まいが実現できると感じています。
小松 :
音楽を作曲する人と、プロデュースする人と、聴く人と、演奏する人。僕にとって四者の都合があるのと同じですね。作曲の仕事でもよくあることですが、僕の理想を優先して仕上げたら良いものができるかというと、そうとは限りません。むしろ商業的な要求を汲んだほうが、最終的に良いものができたという経験も少なからずあります。
プロジェクトに関わる異なる立場の人の視点・意見が合わさって良いものができていくのは、家づくりも音楽づくりも同じなんですね。
深澤 :
コンペで選んだと伺いましたが、決め手は何だったんでしょうか?
小松 :
結局、一番の決め手は“ある程度常識的”だったことかもしれません。ユニークさは大事だけれど、毎日生活する場所ですから、使いづらい・過ごしづらいのはよろしくないですよね……。
それと、家全体が箱のようなつくりになっていて、あとから自由に“改造”できるところも気に入りました。たとえば大きな部屋に仕切りを入れて、2部屋に分けられるとか。
深澤 :
「可変性」は、家づくりにおいて重要なポイントだと思います。
家を建てるときは「過去の暮らしの不便さを改善する」という目線がどうしても強くなります。そしてそれを、現時点の家族の人数や年齢で考えてしまいがちです。たとえば子どもたちの成長・独立など、将来にわたる変化をどこまで想像できるかは、注文住宅設計のポイントと言えます。
ですから、小松さんの選択は“大正解”だったと言えるのではないでしょうか。家族の変化にある程度、柔軟に対応することができる「クリアランス」(隙間、ゆとり)を設けるのは、建築家としてもおすすめしたいことです。

オン/オフの切り替えは必要か?職住一体の家の「正解」とは?

深澤 :
ご自宅の中で、小松さんがリラックスできる空間というと、どこでしょうか?
小松 :
実はこの家、僕だけのための部屋はないに等しいんですよ。ここ(仕事場)でも一人にはなれますが、リラックスできるかというとそうではなく、どちらかというと緊張する場所ですね。
深澤 :
なるほど。家の中でオン/オフの切り替えはスムーズにできていますか?
小松 :
そう言われてみると、あまりできていないですね……。仕事をするときは、まずお茶を飲みながらやる気が出てくるのを待って、それから着替えます。ちょっと窮屈な服を着ることで、仕事のスイッチが入る気がします(笑)。
深澤 :
私自身、新型コロナウイルスの影響で、出社と在宅勤務を併用するようになりました。通勤時間がいかに無駄だったかに気づくなどリモートワークのメリットを感じている一方で、家にいる時間もどこかリラックスできず、「ゆるやかに、ずっと緊張状態が続いている」感じがしていて。オン/オフの切り替えがいまひとつできていないんです。もしこれが10年続くとすると……と想像すると、たまらなくなりました。
在宅勤務は良い面もありますが、メンタルを維持・コントロールする工夫が必要だなと感じているところです。
小松 :
そうか……。僕の場合、「趣味を仕事にしている」と言うといやらしいですけど、「好きな音楽」と「仕事でやっている音楽」がイコールなんですよね。だから、趣味と仕事を分ける考えもなければ、「嫌いなことだけど仕事だからやる」という仕事観もない。もともと、趣味と仕事の境目や、オン/オフの切り替えをあまり気にしていないんです。だから、こういう家が出来上がったのかも。
深澤 :
もし、もう一度家を建てるとなったら、仕事場であるスタジオはご自宅につくりますか?
小松 :
実は、この近くには音楽スタジオが充実していて、今も結構利用しているんですよ。だから、もしこれから新しい家をつくるとなったら、仕事場の面積を今の半分くらいに減らして、もう半分を自分だけの部屋にしますね。狭くてもいいから、いくら汚しても誰にも何も言われない部屋(笑)。
深澤 :
最近は、在宅勤務を前提とした家づくりのオーダーも増えています。オンライン会議などもあるので、他の居室と区切られた書斎やブースに需要があります。
お施主様からは「リビング続きに、ちょっとしたコーナーをつくるだけでもいい」と言われることもあるのですが、私は、仕事部屋は個室にしたほうがいいと考えているんです。小松さんのように“切り替え”があまり必要でない方は稀で、多くの方はオン/オフのスイッチをはっきり切り替えられる家にしないと、リラックスするタイミングを逃してしまい、精神的に不健康な状態につながりかねないと危惧しています。
小松 :
僕のまわりの音楽家でも、それで“病んで”いる人、多いです。
深澤 :
在宅勤務を取り入れて、外に出る機会が減ったことで、いままで「無駄」だと思っていた時間が、意外と大切だったことに気づかされました。何気なく入ったビルの、鉄骨階段のスチールの曲げのアングルを見て、イメージを膨らませたりしていたんだな……とか(笑)。
小松 :
僕は仕事で外出する以外にも、日常的に結構外に出るんです。この近くに川が流れていて、川辺のベンチに座ってゆっくり過ごします。外出自粛期間中も、1日20分は必ず歩くようにしていました。もともとずっと家で仕事をしているので、暮らしぶりはそんなに変化はないんですけれど。
深澤 :
この度のコロナ禍で、ここ(仕事場)を変えた部分はありますか?
小松 :
このあたりに、柔らかいソファーを置いたらどうだろう?と検討しました。疲れた時に、ゴロンと横になれるようにしたらどうかって。でも、怠けることが目に見えているのでやめました。どうしても横になりたいときは、ヨガマットを敷いています(笑)。ヨガマットでちょっと休んだら、すぐに仕事再開。ここはリラックスする場所ではないので、それでいいやと。
この部屋に関してひとつ残念なのは、太陽の光がほとんど入らないところ。夏は涼しくていいのですが、冬場など陽の光を浴びてポカポカしたいときは、わざわざ外に出るしかないんですよね。
(テラジマアーキテクツの物件一覧を見ながら)あ、本当はこういう感じの部屋で仕事ができると最高ですね。全面ガラス張りの仕事部屋は憧れます。楽譜を見るのにも、自然光は楽なんですよね。
深澤 :
自然光を浴びることは、心地良く暮らす上で大切なポイントのひとつです。自然の光と風をどのように室内に取り込むか、都市のど真ん中でもいかに自然を感じながら暮らせるかは、設計時の最重要テーマととらえています。
職住一体の家づくりは、これからさらに増えていくと思います。どんな仕事をしているのか、出社/在宅のバランスを含めどんなワークスタイルなのか、リラックスするスペースと仕事のスペースをどの程度分離したいのか。注文住宅の基本ではありますが、まさにお施主様一人ひとりの事情や嗜好に合わせた設計が必要になると思います。
小松さんのお話、とても参考になりました。ありがとうございました。
※インタビュー時に三者およびインタビューアーの間に十分な距離をとるなど、新型コロナウイルス感染症対策を適切に講じた上で、取材・撮影を実施しています。

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